子の貧困にもっと目を 政治の「本気度」疑問、奨学金希望相次ぐ現実

統一地方選挙2023

北沢祐生
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 「貧困世帯の苦境は予想を大きく超えていました」。3月に一般財団法人「未来応援奨学金にいがた」(新潟市)の理事長に就いた土田雅穂(まさお)さん(72)は、反響に驚いた。

 昨年5月、元副知事を理事長に返済不要の奨学金事業を立ち上げた。当初はこの春から給付を始める予定だったが、コロナ禍や物価高で学業を続けられないという生徒・学生や親から問い合わせが相次ぎ、急きょ8~10月に募集。420人の申し込みがあった。

 月の給付額は高校生が5千円、大学生・専門学校生らが3万円で、資金は企業や個人からの寄付が柱。土田さんは県内の企業などに足を運び、「生徒・学生1人を継続して応援していただけないか」と依頼して回った。高校生70人、大学生ら30人に給付するめどが立ち、10、11月分を12月上旬に振り込んだ。

 ただ、「320人の期待に応えられなかった」。せめて食料だけでも渡せないかと、応募者のうち希望のあった120世帯に、自身が中心となって7年前に創設した「フードバンクしばた」(新潟県新発田市)などを通じ、コメなどを箱詰めして月1回送っている。

 奨学金や食料支援を頼る家庭の多くは母子家庭だ。「自分の食べる分を減らしてでも子どもに与える親の姿を見て、子どもたちは進学や学ぶことを諦める現実がある」と言う。

 奨学金を申し込んだ男子高校生は、ひとり親家庭で、下に2人のきょうだいがおり、アルバイトに明け暮れている。「夢があるから進学したいが、わがままを通せばきょうだいに迷惑をかけ、学費の負担などで病弱の母親をさらに苦しめないかと諦めかけていた」とする。

 給付対象を決める選考委員会委員長の五十嵐一浩さん(62)は、38年間にわたり中学校の教員を務めた経験を振り返り、「これほどの厳しい現実としっかり向き合えていたのかと考えてしまう」と話す。フードバンクしばたの事務所にコメや現金などを届けている会社経営の男性(49)は、「私たちの身近にある貧困の実態に政治や行政はもっと目を向けるべきだ」と訴える。

 岸田政権は「異次元の少子化対策」を掲げ、「社会で子を育てる」とうたう。「本気度」が伝わってこないと感じる土田さんや五十嵐さんは今、進学や子育てだけにとどまらず、不登校引きこもり、虐待など子どもに関わる相談に幅広く応じるセンターの開設に向けた準備を進める。

 奨学金の給付を受けた人が夢を実現し、将来、寄付する側に回る――。「貧困の連鎖」ではなく、そんなバトンパスが生まれる社会になることを願っている。

 奨学金や寄付に関する問い合わせは、未来応援奨学金にいがた(025・250・0889)。(北沢祐生)

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